遺伝医療とどう向き合うか

遺伝医療とどう向き合うか

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遺伝病の遺伝



お兄さんを筋肉が衰えてゆく先天性の病気で亡くした19歳の妹さんとお母さんが遺伝外来に来られました。

兄弟は遺伝的につながりがあり、保因者の可能性もありますから、妹さんに病気が発生しなくても子供を産んだ時に遺伝病が出るかもしれません。

このような心配から保因者診断をするに至ったのですが、その当時は保因者診断は非常に難しく検査データも、保因者を示すようなデータは得られなかったので「保因者であるとはいえない」という診断でした。

その結果を聞いて、本人は安心し自分の子供ができたら遺伝子検査をしてほしいという希望を伝え病院を後にしました。

数年後その人は結婚し、玉のような健康な赤ちゃんを出産し半年、1年と順調に育ってゆきました。



遺伝病の発症?



しかし、その子が大きくなるに連れ歩く力や、滑り台に上る力が弱い様にみられ、ひょっとして遺伝病が発症したのではないか?という状況になってきました。

そこで遺伝子検査をしてみたところ、筋肉が衰えてゆく遺伝病が確認されました。

親であるその子のお母さんが最初の遺伝子検査を行った時に、保因者を示す積極的なデータは無いという結果をお伝えしましたが、最先端の検査をしても保因者かどうかわからないという事も説明しています。

一縷の望みを患者に与えてしまった事から、申し訳ないという気持ちになりました。



患者の気持ち



しかし患者さんからは、小さい頃から兄を見て育ち、兄の手足がだんだん動かなくなってゆく中でも、兄の楽しそうに音楽を聞く姿を見ているのが好きでした。

人よりも少し短い人生かもしれないが、自分には妹がいて、人生をかけられる音楽にも出会えた。自分は不幸とは思わない、幸せに死んで行ける。

と言って天国へ旅立ってゆきました。

私は、そのような兄を見て育って来ましたから、この子の人生も引き受ける事ができます。

と言われました。

筋肉が萎縮する病気は医療の中でも難病とされ、医師の立場からすればこれ以上の不幸があるだろうか、という認識を持っていましたが、そのような中でも幸せを見つけることができる患者さんの心情を知った時に、病気=不幸という安直な考えが打ちのめされました。

価値観は人それぞれ多用なもの、病気であっても幸せを感じることができるし、逆に健康であっても不幸を感じる人など様々です。

医療者は病気に立ち向かいますが、どう病気とどう向き合うかという事を教えられた気がします。
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